〜 紅いワインと白い手 〜
―――――――――――――――――――――――――――
「ぽんっ」という音とともに抜かれたコルクの底は紅く染まっていた
シミひとつないグラスに注がれた紅いポルトガルのワインと
キッチンからはトマトの香り
誰だかわからないピアニストのレーコード盤が回る錆びれたバー
一番奥の椅子には酒場の匂いが染み付いた猫が眠っていて
その横には猫を撫でる女の白い手
マスターの氷を砕く音とフライパンの上で弾ける油の音
遠くを眺めるように細めた僕の目には
痛いほどに真っ白な女の手が映っていて
そんなふうに宿命的に猫を撫でる真っ白なあなたの手を
もっとこっそり見ていたいから
「マスター、ワインをもう一杯」
―――――――――――――――――――――――――――